契約書をなくして再度和解した後に前の契約書を発見した場合どちらの契約が有効か
条件と同じ内容の借用書を書いてもらいましたが、Aさんはその借用書をなくしてしまいました。
期日が来て友人に「期日が来たのでお金を返して欲しい」と言ったところ、友人は「借りたときの条件を忘れたので、借用書を見せて欲しい」と言ってきました。
正直に借用書をなくしたことを伝えると、「そしたら期日もはっきりしないし、まだ返さなくてもいいじゃないか、返さない訳ではないし、今お金が無いのでもう少し待ってほしい」と言われてしまいました。
Aさんも早く返してもらわないと困るので話し合いをし、まずは5万円を返して、残りの15万円を1年後に返すという内容で改めて借用書を作り直しました。
ところがそれを書いた1週間後、なくしたと思っていた借用書が見つかりました。
そのことを友人に言うと、「新しい借用書が有効だろう」ととりあってくれません。
彼の言い分は正しいのでしょうか?
まず、和解というのは、ここではAさんとお金を貸した友人の当事者が互いに譲歩して、その間に存在する争いを止めることを約束することによって、その効力を生ずるものです。
いわゆる民事紛争の自主的な解決方法というように言われています。
民法上の和解契約であれば裁判所は関与しませんが、裁判所が関与するものもあります。
和解の種類は、民法が定める民法上の和解と、裁判所が関与する和解の2つがあり、裁判所が関与する和解についても、裁判上の和解や調停などがあります。
裁判上の和解については、訴えを提起する前の和解と、訴訟上の和解の2種類があり、調停については、民事事件に関する民事調停と、家事事件に関する家事調停事件があります。
以上のことを踏まえた上で、今回の場合は、民法上の和解ということになります。
日常用語的に「示談」という言葉もありますが、示談も一種の和解であると解釈されています。
和解の要件は、当事者間に法律関係について争いがあって、その争いについて当事者間が譲歩して争いを止める合意をし、一定の法律関係の確立についても合意するという要件があります。
民法上の和解で示談のようなものだった場合、当事者間の合意ですから、いわゆる口約束でも成立します。
ただし、一旦紛争になった場合には、やはり口約束だと証拠の問題になり、書面を作っておいた方が後のトラブル防止にもなるので、実質的には書面にする事が必要になってきます。
和解には争いになった権利関係について和解が成立した場合、当事者は原則として和解の内容に拘束されるという効力があります。
これを称して「和解の確定効」という言葉を使います。
「和解の確定効」は、例えば、土地の所有権の帰属についてAさんとBさんで争いがあり、当事者がこの争いを止めようということで合意し、Aさんにその所有権があることを認める代わりBさんがこの土地を5年間使うのを認めるということで、当事者間で和解成立しました。
ところが一旦合意した後に、Bさんに所有権があるんだという何らかの証拠が出てきたとします。
しかし、そのような場合でも、Bさんは和解を覆すことはできません。
なぜならば、一旦和解をした以上は和解の確定効ということで、その和解内容に当事者が拘束されるからです。
和解の効力というのは結構強いもので、一旦合意した以上は、その内容に拘束されるということになります。
ただし、ある場合においては、その効力が否定されることもあります。
交通事故の示談などが該当し、例えば、交通事故を起こして示談をした後で後遺症害が出てきた場合などで、その示談当時予想できなかった後遺症についての損害には、示談の効力は及ばないという判例もあります。
一方、今回のAさんのケースでは和解は成立します。
なぜかと言うと、そのお金を借りたという事実はお互い認めており、間違いがないので争いはありません。
お金の返済の時期とか返済額について争いがあり、最初に5万円返して、残りの15万円は1年後に分割で返済するというような合意をしたということですから和解が成立しています。
和解が成立している以上は、和解の確定効ということで、後で借用書が見つかったとしても和解を覆すことはできないという結論になります。
関連記事
-
飲み会の中止を予約していた店に伝え忘れたら損害賠償が必要?
Aさんは友達10人が参加する飲み会の幹事を任され、居酒屋に予約を入れました。 ところが当日、飲み会に参加するはずだった10人のうち8人が急に来られなくなってしまいました。 Aさんは仕方なくその日の飲み会の中止を決定しました。
-
不利益事実の不告知があり購入したマンションの契約を解除できるケース
部屋からの眺めと日当たりのよさにこだわり、マンション探し続けていたAさんは、ついに希望に合う物件を見つけ、マンションを購入しました。 購入したマンションは、販売業者が「眺めも日当たりも良好です」と勧めてきたもので、その言葉を聞いた上でAさん …
-
貸付自粛や与信自粛とブラックリスト
結婚して20年になるA子さんは結婚してから夫の借金に悩みを抱えていました。 A子さんの夫は浪費癖があり、A子さんに内緒でお金を消費者金融から借りてしまい、これまで一度も計画通りに返せず、毎回A子さんに泣きつきます。
-
連帯保証人になっていた場合の相続について
先日、父親を亡くしたAさんは、葬儀を終了させ、遺産相続の手続きをすることになりました。 亡くなった父親には財産や不動産は特に無く、借金も無いと思っていたAさんは、相続の手続きも簡単に済むと思っていたのですが、父親が友人の借金の連帯保証人にな …
-
年齢を偽って借金をした未成年の息子の借金を支払う義務は親にあるか?
Aさんの息子は19歳の学生で、親元を離れて一人で住んでいますが、先日息子から消費者金融から45万円の借金をしてしまい、自分では払えないから払ってくれないかという連絡がありました。 どうやら息子は19歳であるということを相手方の消費者金融に告 …
-
マンションの購入のキャンセルと手付金が返ってくるケースと返ってこないケース
Aさんは、都内にマンションを買う計画を立てていて、ようやく良い物件を見つけて、その物件の所有者である不動産会社に手付金100万円を払って契約をしました。 しかしその矢先、Aさんが勤務している会社の業績が悪くなり、業績が回復するまでボーナスが …
-
友人同士の借金で利息は請求できる?
3年前友人に泣き付かれ、仕方なく現金50万円を貸したAさんは念のため、返済の時期などを記した契約書を交わしていました。 そして先日、その50万円が契約書通りの日付で、いさぎよく手元に返ってきました。
-
離婚した夫が失業した場合、養育費は払ってもらえない?
A子さんは小さな会社を経営している夫と5年前に離婚し、子供を引き取り毎月10万円の養育費を受け取っています。 しかし先日、別れた夫から連絡があり、「経営している会社が倒産してしまったので来月から養育費が払えない」と言われてしまいました。
-
承諾なしに家族の借金の保証人にされてしまったら
Aさんは、独立して一人で暮らしていますが、先日、実家の父親が借金をした際に、Aさんを保証人にしたということを聞かされました。 Aさんはこの父親の借金について今まで何も聞かされておらず、保証人になることを承諾した覚えもありません。
-
出て行ってしまった嫁のパチンコで作った借金を旦那は払う必要があるか
Aさんの奥さんは3年ほど前からパチンコにはまりはじめ、2年前からとうとう消費者金融から借金をし始めてしまい、現在では総額80万円の借金があります。 ある日突然奥さんが家を出てしまい、途方に暮れていたところに消費者金融から旦那さんに対して、奥 …