差押えと仮差押えの違い
ところが、相当資金繰りが苦しいらしく、遂には自宅を売って事業資金に充てるらしいという話を母親から聞きました。
両親も400万円ほど貸しているようで、不安がっているということなんですね。
他にも、叔父には自宅以外には財産がなく、金融機関からも借りているということです。
Aさんにとっては子供の養育費のためにコツコツと貯めた500万円が返ってこなくなると困るそうなのですが、両親の分も合わせて今から何か手を打つことはできるのでしょうか。

Aさんにとってみれば、貸したお金500万円を回収したいということですから、一番困るのは叔父に唯一の財産の自宅(不動産)を売却・処分されてしまうことです。
もし仮にお金を返してくれなければ「叔父のご自宅に対して差し押さえ手続きを踏ん、それで回収していく」ということを考えないといけませんが、叔父が自宅を売却してしまうと、回収に充てられる財産がなくなってしまうということになります。
ですから、不動産の処分をなんとか防ぐ方法を、まず第一に考えなければいけません。
一般的には、ある財産に対して差し押さえや仮差し押さえをしてくいく場合には、必ず債務名義という物が必要になります。
債務名義というのは、お金を返しなさいという判決や和解調書や、執行認諾文言付の公正証書などのことで、これがあって初めて財産に対して差し押さえができるということになります。
今回の場合には、返済期日が来ているかを考えないといけないのですが、恐らくまだ返済期日は来ていないと考えられます。
返済期日が来てもお金を返してくれない場合に裁判所にお金を返してくれという訴えを請求するので、返済期日が来ていないとお金を返しなさいという裁判を起こせません。
そうすると、考えられる方法としては「仮差押えの手続き」で、「仮差押えの手続き」は「仮の」差押えですから、まだ本当の差押えではありません。
裁判所に対して「仮差押え」を求めるためには「仮差押えの必要性」というのものが必要で、仮差押えの必要性は3つほど要件あります。
1つ目は「近々その財産を処分しようと思っている」ということ。
2つ目は「その財産以外にほかの財産がない」ということ。
3つ目は「他の金融機関や、他の第三者からも借金をしている」ということ。
以上の3つの要件が必要になっています。
今回のケースはこれらの要件満たしているので、仮差押えの手続きを裁判所に陳述する、書面にして出すということになり、それで裁判所が認めるか認めないかを判断するということになります。
また、差押をする相手、今回の場合は叔父に仮差押えをすることが分かってしまうと、事前に財産を処分されてしまう可能性があります。
そうすると、仮差押えの本来の目的は「財産を処分されてしまっては困る」ということなので、密行性が必要になります。
具体的には、叔父は裁判所に全く呼ばずに、債権者の申し立てに基づいて決定を出すというかたちです。
従って、その密行性ということが必要になってくるので、手続の際には専門家に相談した方が良いと思います。
裁判所から仮差押えの命令が出ると「仮差押えの登記」が必要になり、Aさんの叔父は自分の自宅を「事実上売れない」というかたちとなります。
差押えが入っている不動産を買う人は、なかなかいないですから事実上、処分はできません。
ただし、法的にいえば、売れることは売れますが、仮差押えの債権者に対してはその主張をできないというかたちになっています。
また、今回は、Aさんの両親の借金の分もまとめて打つ手はないかということですが、仮差押えの手続きはまとめてすることはできずに、両親の分は両親が仮差押えの申し立てをするということになります。
それぞれ債権者が違うので仮差押えはその叔父の不動産に2つ入るということになります。
その際は「先に登記をした方が有利」などのようなことはなく、最終的には必ず裁判をしないといけません。
本案の裁判をして、そこで勝訴判決を得てから本差押えというかたちになります。
ですから仮差押えの段階では、どちらが有利だということはありません。
従って、仮差押えをして、借金の返済期日が来て返さなかったという事実があってから裁判を起こして初めて本差押えということになります。
そして最終的に不動産が売却されて、仮に2000万円で売却されたということであれば、その2000万円を各債権者の債権額に合う分に平等に分配されます。
関連記事
-
-
兄弟の借金の返済をしつこく催促された場合、支払う必要はあるか
Aさんには兄がいて、兄は飲食店を営んでいましたが、2年程前から次々と近所にライバル店ができ、客足はどんどん遠のいて、先月ついにお店をたたむ事になってしまいました。 Aさんはお店の後片付けを手伝う事にしたそうなんですが、兄はショックのためなか …
-
-
壊れたエアコンは大家に修繕する義務がある?
Aさんは、アパートを借りて住んでいました。 最近、入居したときからついていたエアコンが壊れてしまいました。
-
-
分譲マンションでペットの飼育を許可してもらうには
先月、分譲マンションに引っ越してきたAさんには悩みがあります。 Aさんは、以前から犬を飼っているのですが、引っ越してきたマンションではペットの飼育が禁止されているのです。 Aさんのほかにもペットを飼っている住民が何人か居ることもあり、今のと …
-
-
友人同士の借金で利息は請求できる?
3年前友人に泣き付かれ、仕方なく現金50万円を貸したAさんは念のため、返済の時期などを記した契約書を交わしていました。 そして先日、その50万円が契約書通りの日付で、いさぎよく手元に返ってきました。
-
-
年齢を偽って借金をした未成年の息子の借金を支払う義務は親にあるか?
Aさんの息子は19歳の学生で、親元を離れて一人で住んでいますが、先日息子から消費者金融から45万円の借金をしてしまい、自分では払えないから払ってくれないかという連絡がありました。 どうやら息子は19歳であるということを相手方の消費者金融に告 …
-
-
闇金などの高すぎる利息の借金は支払わなくていい?
Aさんは1年程前、生活費に困り、金融業者から月1割の利息でお金を借りました。 その後、借金も徐々に減ってきた時、Aさんは友人から「金利が高すぎるので払う必要がない」ということを聞きました。
-
-
分割払いでお金を貸したが返済が滞っている場合、途中で一括返済を求めることができる?
Aさんは友人に分割返済の約束で50万円を貸しました。 ただし最終的な返済期限だけを取り決め、1回あたりの返済額や回数は細かく決めませんでしたが、この内容で友人に借用証書を書いてもらいました。
-
-
マンション購入の契約のキャンセルと契約手付金について
展示用のマンションを見に行きすっかり気に入ってしまい、その日のうちに自宅で業者とマンションを買う契約をし、手付金50万円を渡しました。 しかし、改めて考えたときに、ローンの月々の支払いなどに無理がある気がしたため、3日後にキャンセルを申し出 …
-
-
離婚した夫が失業した場合、養育費は払ってもらえない?
A子さんは小さな会社を経営している夫と5年前に離婚し、子供を引き取り毎月10万円の養育費を受け取っています。 しかし先日、別れた夫から連絡があり、「経営している会社が倒産してしまったので来月から養育費が払えない」と言われてしまいました。
-
-
連帯債務と分割債務の違いについて
Aさんは友人2人と田舎の一軒家を買い取り、そば屋を営む計画を立てていました。 ある日良い物件が見つかったので、早速3人は銀行から3人の連帯でローンを組んで買い取り資金の1200万円を調達し、その物件を買い取りました。